相続時の名義変更や住所・氏名の変更時の不動産登記の義務化について

相続登記の義務化

不動産などの所有者が亡くなった場合、相続が発生して相続人等へ財産の承継がされます。

その際、配偶者や子などの相続人間で誰がどのように不動産や預金などの相続財産を、取得するのかを決めて遺産分割協議書を作成して各財産の名義変更を行います。

しかし、不動産の名義変更(相続登記)の申請は現在は義務ではなく、預金や保険金などの手続きだけ済ませて不動産の名義変更が行われないケースも多くあります。

相続登記をしないまま何年も経過して当初相続人だった人が亡くなって相続が繰り返されると、相続人となる人が数十人となっていて、手続きを進めようとしても、協力してもらえない人や所在がわからない人などが出てしまい遺産分割協議をまとめることが困難となり、結局そのまま放置されてしまいます。

放置された不動産は所有者がわからないため、売買など処分することができず凍結状態となり、公共事業や復旧・復興事業、民間取引に支障をきたし、空き家問題や不法投棄がされるなどなど不動産の利活用を阻害することとなります。

このように、そのまま放置されて不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない土地(所有者不明土地)の割合は、平成28年の地籍調査によると約20%となり面積で九州を上回るとされており、その要因として、①相続登記がされていない土地、②所有者は特定できるが転居先などがわからない(住所変更等の登記がされていない)土地が多くを占めます。

今後も都市部への人口移動や少子・高齢化などにより地方部を中心に今後も増加することが予想され、大きな問題となっていました。

 

相続登記の義務化の具体的な内容

所有者が不明となってしまう問題の解決策を長年検討されてきましたが、「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が令和3年4月21日に成立しました(公布は令和3年4月28日)。

これらの法律は、所有者不明土地の発生を予防する方策とすでに発生している所有者不明土地の利用の円滑化の方策からなり、所有者不明土地の発生予防の方策として、これまでは申請の義務がなかった相続登記が義務化されることとなりました。

不動産の所有者に相続があったときは相続人は相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければなりません。これは、遺言や遺産分割で決められた相続人への相続登記または遺産分割の前に法定相続分での相続登記をすることで義務を履行したこととなります。

さらに、上記の法定相続分による相続登記をした後に遺産分割で法定相続分を超える所有権を取得することとなった相続人は、遺産分割の日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければなりません。

この登記申請を正当な理由がなく怠った場合は10万円以下の過料の罰則があります。

さらに、新たに創設される「相続人申告登記」を利用できるようになります。これは、期限内での遺産分割が困難な場合など、相続人が単独で登記簿上の所有者に相続が発生したこと、自身が相続人であることを申し出た相続人は申請義務の履行を行ったとみなされる制度です。

この申出を受けた法務局は職権でその旨(報告的な内容)を登記します。申出は登記申請よりも簡易な手続きとなりますが、申告した人がその後の遺産分割により所有権を取得した場合は、遺産分割の日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければなりません。

このほか、遺贈(相続人に対する遺贈に限ります)による所有権の移転や先に法定相続分での登記がされている場合に、その後に遺産分割した場合や遺言書を発見したなどの場合に、従来では他の相続人と共同で申請する必要があった申請を単独で申請することができるようになります。

また、相続登記を義務化するにあたり、相続人の負担を考慮して申請時に必要となる登録免許税の負担を軽減することが予定されています。

なお、相続登記の義務化の施行日は、令和6年頃となる予定です。

≫相続登記の手続きについて

 

※相続登記の義務化については、令和6年4月1日施行となることが決定いたしました。

 

住所や氏名の変更登記の義務化

相続登記の未了に次いで所有者が不明となる要因として、所有者の住所(法人の場合は所在)や氏名(名称)に変更があった場合に、その変更登記がされていないことから、登記された後の転居先などがわからず所有者の所在が不明となることが挙げられます。

今回の改正法成立により、この住所や氏名などの変更登記についても、変更登記が義務化されることとなりました。

現在では、売却などで所有権の移転登記を申請する前提として、売主の住所が登記簿に記載されている住所や氏名に変更がある場合には変更登記をしなければなりませんが、そのようなことがない限り、変更のたびに登記申請する義務はありませんでしたが、今後は申請しなければならなくなります。

 

変更登記の義務化の具体的な内容

不動産の所有者の住所(所在)・氏名(名称)に変更があったときには、2年以内にその変更登記を申請しなければなりません。

また、登記申請の際に登記名義人が自然人の場合は生年月日等の検索用情報の申出を行い、法人の場合は会社法人等番号が登記事項となります。

相続登記の義務化と同様に罰則があり、正当な理由がなく申請を怠った場合は5万円以下の過料となります。

 

そして、新たな方策として登記名義人の住所(所在)や氏名(名称)の変更情報を不動産登記に反映させる仕組みが創設されます。

これは、自然人の場合は、登記官が提供された検索用情報に基づいて住民基本台帳ネットワークシステムへ定期的に照会を行い、登記名義人の住所や氏名等の変更情報を取得して、登記名義人に変更登記をすることについて確認をとって登記をします。法人の場合は、会社法人等番号を登記事項に追加し、法人・商業登記システムから不動産登記システムに対して所在や名称が変更された情報を通知して、通知された情報に基づいて登記官が変更登記をします。

なお、住所氏名登記の義務化の施行日は、令和8年頃となる予定です。

 

その他(所有不動産記録証明制度の創設など)

相続登記や住所氏名の変更登記の義務化以外にも様々な仕組みの創設や見直しがされます。

・登記名義人の死亡等の事実の公示

登記名義人から提供された検索用情報に基づいて、住民基本台帳ネットワークなどへの照会により死亡等の情報を取得した場合は、登記官がその旨を符号により表示します。これにより、登記簿で登記名義人の死亡の有無の確認が可能となります。

・所有不動産記録証明制度

特定の人や会社が所有者として登記名義人となっている不動産の一覧を証明書として発行してもらえます。これにより相続登記をしなければならない不動産を把握することが可能となり登記漏れを防止することができます。

・相続等により取得した土地所有権を国庫に帰属させる制度

相続等により望まず取得した土地を、利用する予定もなく手放したいと考える相続人のため、そのような土地を国庫に帰属させる制度です。帰属させるためには承認を受ける必要があり、どのような不動産でもいいわけではなく、以下のような場合は認められません。

①建物が建っている土地

②土壌汚染や埋没物がある土地

③崖がある土地

④権利関係に争いがある土地

⑤担保権等が設定されている土地

⑥通路など他の人に利用される土地  など

また、国へ帰属させるためには審査手数料以外にも、各土地の性質などを考慮して定められた10年分の土地管理費用相当額が徴収されます。

これにより、管理されず放置される土地や将来的な所有者不明土地の発生を防止することができます。

このほか、所有者不明土地の利用の円滑化の方策として、相続開始から10年を経過した場合に画一的な遺産分割を行う仕組みの創設、共有している不動産について、所在不明な共有者がいる場合に裁判所の関与により共有不動産の変更・管理、処分が可能となる制度など、所有者不明土地に関する様々な見直しや仕組みが創設されます。