7/1施行 相続法改正⑥ 遺産分割前に遺産を処分した場合の遺産の範囲

遺産分割前に遺産を処分した場合の遺産の範囲

 

事例父が亡くなり、相続人は長男と二男の2名。

遺産の整理は長男が近くに住んでいたため、長男が進めている。

長男は、なかなか遺産の状況を教えてくれないため、二男は自分で銀行から取引履歴を取得して確認したところ、父が亡くなった時点では残高は2000万円あったが、全額が引き出されて残高は0円となっていた。

長男が預金を引き出したのかは不明である。

 

改正前の取扱い

相続が開始して、遺産分割をする前に相続人の一人が相続財産を処分(預金を引き出すなど)されてしまうことがあります。

このような場合について改正前の取扱いでは、相続人全員の合意がない限り、その処分された財産を除いて遺産分割をおこなうこととされていました。

遺産分割は、被相続人が亡くなった時に存在し、かつ、遺産分割協議の成立時にも存在する財産を分配する手続きであると考えられてきました。

そのため、一部の相続人が相続開始後、預貯金の払戻しを受けていたとしても、処分(引き出された)された財産は遺産分割の時には存在しないため、遺産分割の対象にはならないとされていました。

この事例の場合、長男が引き出しをしていた場合は、引き出しがなかった場合と比較して、引き出した場合の方が多くの遺産を取得することになり不公平な結果となってしまいます。

預金の引き出しがなかった場合

遺産分割時の財産:自宅(2000万円)、預金(2000万円)

長男(相続分2分の1)→2000万円

二男(相続分2分の1)→2000万円

預金の引き出しがあった場合

遺産分割時の財産:自宅(2000万円)

長男(相続分2分の1)→1000万円→引き出した預金2000万円→合計3000万円

二男(相続分2分の1)→1000万円

 

そのため、実務では遺産を処分した相続人に対して、他の相続人(事例では二男)が不法行為や不当利得に基づく請求といった遺産分割とは別の民事訴訟手続きにより解決を求めていくことになりますが、この不法行為や不当利得に基づく請求によって不公平を是正することは困難な場合がありました。

 

改正による変更点

そこで、新民法はこの不公平が生じないように是正する方策を設けることにしました。

(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)

第906条の2
1 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

第1項は、遺産に属する財産が(相続人・第三者を問わずに)処分された場合であっても、相続人の全員が処分された財産を遺産分割の対象とすることに合意すれば、その財産を含めて遺産分割ができるとするものです。

これは、これまでの実務においても定着していたものを明文化したものとなります。

第2項は、遺産に属する財産が「相続人の一人又は数人」によって処分された場合は、その処分した相続人の同意を要することなく、他の相続人がそのが処分された財産を遺産分割の対象とすることに合意すれば、その財産を含めて遺産分割ができるとするものです。

この第2項は、財産を処分したのが第三者ではなく相続人であることが必要です。

しかし、事例の長男が「財産を処分ていない」など、争っているような場合には、家庭裁判所が、遺産分割手続きの中で、処分者が誰かを認定して、処分要件が満たされているかを判断することになります。

これにより、財産の処分を長男が認めている場合や裁判所により処分者が長男と認定された場合には、長男の同意を得ることなく処分された財産を遺産分割の対象として含めることができ、公平な遺産分割をすることができるようになります。

 

(出典 法務省ホームページより)

 

 

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